顕微鏡の限界

 定規にはたいてい、1 mm間隔で線が引いてあります。これは、この間隔であれば私たちが見分けることができるからです。もし、1 mmの間隔の中に10本線を引けば、0.1 mm単位で長さを測れる定規ということになりますが、私たちの眼でそれを見分けるのは困難です。つまり、私たちの眼で見分けられる最小サイズは、1 mmくらいということです。
 しかし、顕微鏡を使えばより小さいサイズを見分けることができるようになります。レンズによる光の屈折を利用した光学顕微鏡の場合、最大で約1000倍に拡大して見ることができます。この場合、見分けられる最小サイズは1 mm1000分の11 μmということになります。
 
 さて、現在は光学顕微鏡で見分けられる限界はこのくらいということですが、より倍率の高い光学顕微鏡が開発されればもっともっと小さな世界も見分けられるようになります。例えば、倍率がさらに10倍アップすれば0.1 μm100倍アップすれば0.01 μm、…というレベルまで見分けられることになります。このくらいになると、1つひとつの分子が見分けられるということになりますし、さらに倍率が上がれば原子1つひとつも見分けられるということになります。はたして、この先そのような開発は行われていくのでしょうか?

 残念ながら、「光学」顕微鏡によってそのような高い倍率を実現することは、原理的に不可能なのです。どういうことかというと、私たち人間が見ることができる光(=可視光)の波長は、およそ0.40.8 μmという値です。そして、それより小さなものを光を利用した「光学」顕微鏡で見分けることは不可能なのです。それは、光が回折するからです。
 光の回折とは、光が障害物の裏側へ回り込むことですが、要は光が広がりをもって進むということです。見分けようとしているサイズが光の波長に比べてずっと大きい場合は、光の回折は苦にならず、見分けることができます。しかし、光の波長と同程度のサイズのものになると、光の回折が無視できず、ぼやけて見えてしまうことになるのです。そのため、可視光の波長よりも小さいものを、可視光を利用して見分けることは不可能ということになるのです。
 私たち人間の見ることができる光の波長がもっと短かったら、より小さな世界を見分ける顕微鏡が開発されていたことでしょう。顕微鏡の倍率の限界は、実は可視光の波長が決めていたのです。

 なお、可視光の波長よりずっと小さい世界
(原子や分子の世界)は、電子顕微鏡を使えば見ることができます。電子顕微鏡は、可視光を利用する光学顕微鏡とは違い、電子を利用します。電子は粒子であると同時に波としても振る舞います。その波長は、可視光の波長よりずっと小さな値です。ですので、電子を利用することで原子や分子といった小さな世界まで見分けることができるのです。




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