1816年、スコットランドの牧師であり発明家でもあったスターリングによって発明された「スターリングエンジン」。当時は蒸気機関が主流でしたが、高圧のボイラーでは爆発事故が頻発したため、スターリングエンジンは安全な熱機関として注目されていました。
しかし、高出力のガソリンエンジンやディーゼルエンジンが発明されると、出力の小さいスターリングエンジンが利用されることはほとんどなくなりました。
約200年の間、あまり活躍してこなかったスターリングエンジンですが、実は300℃程度の熱で発電機を回すことができるという利点を持っています。
火力発電において蒸気でタービンを回すときには、蒸気の温度を600℃ほどにする必要があります。比較すると、スターリングエンジンがかなり低温で発電できることが分かります。
低温で発電できるスターリングエンジンなら、工場や船などの廃熱を使っての発電も可能です(例えば、煎餅を焼く工場の廃熱でも可能)。そこで、今までは捨てるだけだった熱を使って小規模な発電を行おう、という試みが広がっています。
今回は、そんなスターリングエンジンの仕組みを紹介します。
まずは、スターリングエンジンの構造です。
シリンダーの中には、高圧のガスが封入されています。分子サイズが小さく熱を伝えやすいヘリウムガスが最も多く利用されます。
シリンダー内をディスプレーサで仕切り、片方はヒーターで加熱、もう片方はクーラーで冷却できるようになっています。同じ場所で加熱と冷却を切り換えるより、こちらの方が効率がよくなります。
では、スターリングエンジンが動く仕組みです。
ディスプレーサを下向きに動かしたとします。すると、冷却側から加熱側へガスが移動します。
ガスの移動によって、高温のガスが多くなります。気体は温度が上がると圧力も大きくなるので、シリンダー内部のガス全体の圧力が大きくなります。
この圧力の増加により、パワーピストンが下向きに押されます。
この後、フライホイールは惰性によって回転を続けます。そのため、パワーピストン、ディスプレーサの動きが上昇に転じます。
すると、今度は加熱側から冷却側へガスが移動します。そして、シリンダー内のガス全体の圧力は下がるため、パワーピストンがさらに押し上げられるのです。
この行程を繰り返すことで、フライホイールは回転を続けます。そして、フライホイールの部分に磁石とコイルを設置すれば、電磁誘導によって電流が発生します(通常の発電機と同じ原理です)。
発電で生じる熱を給湯や冷暖房に再利用するなど、廃熱を再利用するシステムを「コージェネレーションシステム」と言いますが、コージェネレーションシステムにスターリングエンジンを利用する開発が進んでいるのです。
日本では、(独)海上技術安全研究所(NMRI)、(株)eスター、東海運(株)が共同で、(独)鉄道建設・運輸整備支援機構(JRTT)の委託を受けて船舶のディーゼルエンジンの廃熱を利用したスターリングエンジンの研究開発を進めています(eスターはパナソニックのベンチャー支援制度によって設立された、スターリングエンジン専門の企業です)。
船は停泊中も電力を必要とします。仮に、10
kWの電力(一般家庭3軒分)が必要だとすると、10時間の停泊中に必要な電力量は10×10=100
kWhになります。そこで、航行中ずっとスターリングエンジンを動かしてディーゼルエンジンの廃熱で発電し、それを蓄電して停泊中の電力をまかなうことを考えてみます(まかなえれば、停泊中にディーゼルエンジンを停止でき、ディーゼルエンジンから排出される硫黄酸化物を防ぐことができ、また節電にもつながります)。
仮に2日間(48時間)航行したとすると、1時間当たり100÷48≒2
kWの発電ができればよいことになります。
先ほど述べた日本の3社の共同研究により、スターリングエンジン1台で500
Wの発電が実現できたそうです。ですので、スターリングエンジン4台を搭載すれば、停泊中にディーゼルエンジンを停止させることが可能になります。
ちなみに、この研究ではヒーター部分に銅を利用したそうです。銅は非常に熱を伝えやすいため、低い温度でも効率的に熱を回収できるからです。
ただ、銅の融点は1083℃なので、これを超えると融けてしまいます。ですので、熱伝導にすぐれた銅ですが、高温の熱を回収するときには利用できません。しかし、スターリングエンジンは低温の熱源を利用するシステムであるため、銅の利用が可能なのです。
|