地面を蹴る方向

 短距離走では、スタートダッシュでどれだけ加速できるかが勝負です。
 大きな加速を得るためには、大きな推進力が必要です。走るときに得る推進力は、地面から与えられます。足で地面を蹴る力の反作用で、人は加速することができるのです。





 ここで、地面から受ける力は次のように分解できます。






 垂直抗力は体重を支える働きをするだけで、実際に推進力となるのは摩擦力です。
 そうであるなら、地面を蹴る向きを水平に近づければ、同じ力で蹴ってもより大きな推進力を得られそうです。






 でも、そんなに甘くはありません。蹴る向きを水平に近づけすぎると、地面にうまく力が伝わらずスリップしてしまいます(実際にやってみれば分かります)。
 地面を蹴っている間、足の裏は地面に対して静止していると考えられるので、この摩擦力は「静止摩擦力」です。静止摩擦力には、上限(最大摩擦力)があります。最大摩擦力は次の式で表せます。





 静止摩擦係数μは、地面と履いているものの種類によって決まる定数です。だから、最大摩擦力Fは垂直抗力Nに比例することになります。
 蹴る向きを水平に近づけるほど、垂直抗力Nは小さくなります。すると、最大摩擦力Fも小さくなってしまいます。だから、必要な摩擦力が発生せずスリップしてしまうのです。

 実際の陸上競技では、グラウンドとスパイクとの間の静止摩擦係数μはおよそ0.3くらいだそうです(もちろんグラウンドの状態、スパイクの種類によって異なりますが)。
 仮に静止摩擦係数μを0.3として計算すると、最大摩擦力を得る角度は次のように求まります。






 これよりθが小さいのは勿体ないですが(摩擦力が最大摩擦力より小さくなってしまうので)、大きくなればスリップしてしまいます。θ=17°の向きに蹴るのが最も効率的なのです。あとは、どれだけ強く蹴られるかです。
 もちろん、静止摩擦係数μが大きくなればθを大きくすることができ、より強い摩擦力(推進力)を得ることができます。静止摩擦係数μを大きくすることが、スパイクの性能向上の大きな課題の1つなのです。


トップページ   サイトマップ 

inserted by FC2 system